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社長コラム(第33号 2025年10月)
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製品開発における部品製造では、試作や小ロット時のコストと納期のバランスが大きな課題となります。特に樹脂部品の製造では、射出成形のような金型を使用する方法が一般的ですが、初期投資が高額になるため、小ロット生産では採算が合わないケースも少なくありません。
そこで注目されているのが「樹脂切削加工」です。金型を必要とせず、工作機械で素材を削り出すことで高精度な部品を製造できるこの方法は、設計変更にも柔軟に対応でき、短納期での納品が可能です。
本記事では、樹脂切削加工の基本的な特徴から、メリット・デメリット、具体的な加工方法や流れまで詳しくご紹介します。
目次
樹脂切削加工とは、金型不要で高精度な部品製造を実現する加工方法のことです。まずは樹脂切削加工の特徴と、射出成形などの成形加工との違いについて詳しく解説します。
樹脂切削加工とは、プラスチックなどの樹脂素材を旋盤やフライス盤、マシニングセンタといった工作機械で削り出し、目的の形状に仕上げる加工方法です。金型を使用せずに製造できるため、試作品や少量生産に適しており、短納期での対応が可能です。また、設計変更にも柔軟に対応できる点が大きな特徴です。ただし、樹脂は金属と異なり熱の影響を受けやすいため、加工条件や工具選定には注意が必要となります。
成形加工は、熱で溶解した樹脂を金型に流し込み、冷却して固化させる加工方法です。射出成形や圧縮成形などがあり、大量生産に適している一方、金型製作に高額なイニシャルコストがかかります。
これに対し、樹脂切削加工は金型が不要で、切削工具を用いて素材を削り出すため、初期投資を大幅に抑えられます。特にロットが小さい製品では、金型代の償却が難しいため切削加工が有利です。また、板材から切り出すことで平面度が高く、表面仕上げが美しい点も特徴です。設計段階での柔軟性が高く、マイナーチェンジの際にも余計なコストをかけずに対応できるため、試作や多品種少量生産に最適な手法といえます。
| 項目 | 樹脂切削加工 | 成形加工 |
|---|---|---|
| 初期コスト | 低い(工具代のみ) | 高い(金型代) |
| 生産性 | 少量生産向き | 大量生産向き |
| 設計変更 | 柔軟に対応可能 | 金型変更が必要 |
| 表面仕上げ | 平面度が高い | 成形技術に依存 |
上記の表のように、それぞれに違いがあるため、設計ステージでの判断や量産性の観点から、どちらの方法を採用するかは慎重に比較検討が必要です。
樹脂切削加工には多くの利点がある一方で、注意すべき点も存在します。
ここでは、樹脂切削加工のメリットとデメリットについてご紹介します。
樹脂切削加工の最大のメリットは、金型が不要なため初期投資を大幅に抑えられる点です。射出成形では金型の製作に数百万円の費用がかかりますが、切削加工であれば主に工具代のみで済みます。
また、少量多品種生産や短納期対応に優れており、設計変更にも柔軟に対応できます。NC工作機械を用いることで高精度な加工が可能となり、複雑な三次元形状や厳しい公差が求められる部品の製作にも対応できます。試作段階から量産前の検証まで、幅広い用途で活用できる点が大きな強みです。
樹脂切削加工にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。樹脂素材は金属と比べて熱に弱く、切削時の摩擦熱によって変形や溶融が発生しやすいため、加工条件の設定に注意が必要です。また、応力集中による割れや反りが生じる可能性もあり、加工精度が低下するリスクがあります。
さらに、素材を削り出す工法のため材料ロスが多く、大量生産には不向きでコストパフォーマンスが低下します。成形加工と比較すると、生産効率の面で劣るため、用途に応じた適切な加工方法の選定が重要です。
樹脂切削加工は、試作品や少量生産、高精度な部品製作が求められる分野に特におすすめです。自動車産業では、試作部品や治具の製作に活用されており、設計検証から量産準備までのスピードアップに貢献しています。医療機器分野では、生体適合性に優れた樹脂を用いた精密部品や手術器具の製造に利用され、厳しい品質基準にも対応可能です。
電子部品や半導体製造装置においても、絶縁性や耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックを使用することで、金属代替部品として採用されています。また、航空宇宙産業では軽量性と高強度を兼ね備えた部品製作に活用され、機体の軽量化に貢献しています。
研究機関や教育機関でも、多品種小ロットの実験用治具や試作品製作に広く利用されており、柔軟な設計変更が可能な点が評価されています。このように、樹脂切削加工は幅広い産業分野で重要な役割を果たしています。
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樹脂切削加工では、用途に応じてさまざまな素材が使い分けられています。
汎用プラスチックは、加工性が良くコストも抑えられるため、幅広い用途で使用されています。代表的な素材としては、ABS樹脂やアクリル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などが挙げられます。
ABS樹脂は、機械的強度とバランスの良い特性を持ち、外装部品やケースなどに多く採用されています。アクリルは透明性に優れており、ディスプレイカバーや看板、照明カバーなどに使用されます。また、接着性も良好で、二次加工がしやすい点も特徴です。ポリスチレンは剛性が高く、電気絶縁性に優れているため、電子部品や日用品に利用されています。
これらの汎用プラスチックは比較的安価で入手しやすく、切削加工時の取り扱いも容易なため、試作品製作や小ロット生産に適しています。
エンジニアリングプラスチックは、汎用プラスチックよりも耐熱性や機械強度、耐摩耗性に優れた高機能素材です。代表的なものとして、POM(ポリアセタール)、ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)などがあります。
POMは摺動特性に優れ、歯車やベアリングなどの機構部品に広く使用されています。ナイロンは高い靭性と耐摩耗性を持ち、機械部品や自動車部品に採用されています。ポリカーボネートは透明性と耐衝撃性を兼ね備え、安全カバーやレンズ部品などに利用されます。
これらの素材は用途に応じた選定が重要で、使用環境や求められる特性を考慮する必要があります。
スーパーエンジニアリングプラスチックは、エンジニアリングプラスチックをさらに上回る耐熱性と機械強度を持つ高機能素材です。PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)が代表例として挙げられます。
PEEKは連続使用温度が250℃以上と非常に高く、耐薬品性や寸法安定性にも優れているため、航空機部品や医療機器に使用されています。PPSは耐熱性・耐薬品性が高く、電気絶縁性にも優れているため、半導体製造装置や自動車のエンジン周辺部品に採用されています。
これらの素材は加工難易度が高く、材料費も高価ですが、過酷な環境下で使用される部品には欠かせない存在です。
樹脂切削加工には、形状や用途に応じたさまざまな加工手法があります。
旋盤加工は、円筒形状の部品加工に適した手法で、軸物や丸形部品の製造に広く使用されています。素材を回転させながら切削工具を当てることで、外径・内径加工や端面加工、溝加工などを行います。NC旋盤を用いることで、高精度な同心度や真円度を実現でき、複雑な形状にも対応可能です。
ただし、樹脂は金属と異なり熱や押さえ圧に弱いため、切削条件の設定が重要です。回転速度や送り速度、切り込み量を適切にコントロールし、摩擦熱による変形や溶融を防ぐ必要があります。冷却方法や工具の選定も加工精度に大きく影響します。
フライス加工は、角形状や平面加工、溝加工などに広く用いられる加工方法です。回転する切削工具を素材に当てながら移動させることで、複雑な形状を削り出すことができます。マシニングセンタを活用することで、三次元的な複雑形状にも対応でき、高精度な部品製造が可能です。
樹脂のフライス加工では、切削時の発熱による反りやバリの発生を抑える工夫が求められます。適切な切削速度と送り速度の設定、切れ味の良い工具の使用、効果的な冷却方法の採用などが重要です。特にアクリルなどの透明樹脂では、表面仕上げの美しさも求められるため、仕上げ加工の条件設定にも注意が必要です。
樹脂切削加工は、図面の検討から仕上げまで複数の工程を経て行われます。
樹脂切削加工の第一段階は、お客様から提供された図面を元に、加工の可否や最適な製作方法を検討することから始まります。図面に記載された寸法や公差、表面粗さなどの要求仕様を確認し、使用する樹脂素材の特性を考慮しながら加工方法を選定します。
材質によっては、熱変形や反りが発生しやすいため、加工順序や固定方法も慎重に決定します。また、公差要求が厳しい場合は、温度管理や測定タイミングも重要な検討事項となります。この初期段階での設計相談や技術的なアドバイスが、後工程での品質確保とコスト削減に大きく影響するため、経験豊富な技術者との綿密な打ち合わせが欠かせません。
加工方法が決定したら、図面の要求仕様に適した樹脂素材を選定し、加工機械のセッティングを行います。素材は板材や丸棒など、形状や部品構造に応じて最適なものを準備します。 加工機械では、使用する工具の選定や取り付け、回転数や送り速度などの加工条件を設定します。樹脂の種類や板厚によって最適な条件は異なるため、素材特性を考慮した細かな調整が必要です。また、CAD/CAMソフトウェアを用いて切削プログラムを作成します。このプログラムには、加工する材料の特性や工具の選定、切削経路の最適化など、企業独自のノウハウが反映されており、加工精度と効率を左右する重要な要素となります。
準備が整ったら、実際に加工機械を稼働させ、樹脂素材を削り出して設計形状に仕上げていきます。作成したプログラムに従って工具が素材を正確に切削し、複雑な形状を再現します。 加工中は、切削速度や送り速度を適切に管理し、摩擦熱による変形や溶融を防ぐことが重要です。特に樹脂は熱に弱いため、冷却方法や切削条件の微調整が必要になる場合もあります。また、切削時に発生する切粉の処理も重要で、切粉が加工面に付着すると表面品質が低下する恐れがあります。加工中は機械の動作状況を常に監視し、必要に応じて条件を調整しながら、高精度な部品製造を実現します。
切削加工が完了したら、仕上げと検査の工程に移ります。加工後の部品に対して、寸法測定や表面粗さの確認を行い、図面で指定された公差内に収まっているかを検証します。 三次元測定機やマイクロメーター、ノギスなどの精密測定器を用いて、各部の寸法を正確に測定します。また、表面仕上げの状態も目視や触診で確認し、品質基準を満たしているかをチェックします。必要に応じて、研磨や洗浄などの追加仕上げを施すこともあります。この最終検査工程は、製品精度と品質保証に直結する重要なプロセスであり、お客様に信頼される製品を提供するために欠かせない工程です。
樹脂切削加工は、金型を使わずに高精度な部品を製造できる加工方法で、試作品や少量生産、多品種製造に適しています。初期投資を抑えながら、設計変更にも柔軟に対応できる点が大きな魅力です。
ニチベイパーツでは、16軸切削機による高効率な加工と、徹底した寸法管理による高精度な樹脂切削加工を行っています。さらに、スクリーン印刷やパーツ自動組立といった後工程と組み合わせることで、高品位で高付加価値の商品を一貫して提供することが可能です。 樹脂部品の製造や外注先をお探しの際は、豊富な実績と技術力を持つニチベイパーツにぜひご相談ください。お客様のニーズに最適なソリューションをご提案いたします。
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